女性におけるWAIS（ウェクスラー成人知能検査）と実行機能障害の理解

実行機能の定義と役割

実行機能（Executive Functions）は、目標達成のために計画立案、問題解決、注意の切り替え、自己制御、作業記憶の維持など複雑な認知プロセスを統括する高次脳機能群を指します。これらの機能は前頭前野を中心に広範囲な脳領域で担われ、日常生活や職業的活動において重要な役割を果たします。

実行機能障害の概要

実行機能障害（Executive Dysfunction）は、上記の認知プロセスの障害を指し、計画的行動の困難、注意の散漫、自己制御の低下、柔軟な思考の欠如などが見られます。精神神経疾患や脳損傷、発達障害、加齢に伴う認知症などで頻繁に観察されます。

WAISの目的と構成

WAISは成人の知能を多面的に評価する心理検査で、言語理解、知覚推理、作業記憶、処理速度の4つの指標（インデックス）を基盤に、総合的な知能指数（IQ）を算出します。これにより、認知機能の強みや弱み、特に実行機能の一部である作業記憶や処理速度の評価が可能です。

WAIS-IVの各指標の意味

言語理解（VCI：Verbal Comprehension Index）

語彙や類推能力など言語的理解力を示す。

知覚推理（PRI：Perceptual Reasoning Index）

視覚的・空間的推論力を測定。

作業記憶（WMI：Working Memory Index）

短期記憶の保持・操作能力を評価。実行機能に密接に関連。

処理速度（PSI：Processing Speed Index）

情報処理の迅速さを反映し、注意・集中力にも関わる。

性差と実行機能

研究により、女性は男性に比べて言語的能力や作業記憶に優れる傾向がある一方、注意や処理速度の差異も指摘されています。実行機能障害が女性に及ぼす影響は個々の認知特性と環境要因に左右されやすいため、詳細な評価が求められます。

WAISによる実行機能障害の評価

WAISでは特に作業記憶指数（WMI）と処理速度指数（PSI）が実行機能の指標として用いられます。これらのスコアが著しく低下している場合、計画力や注意の持続、情報処理の困難が疑われ、臨床的に実行機能障害の可能性を示唆します。

日常生活における影響

計画の立案や時間管理の困難

複数の課題の切り替えが困難

注意の散漫、忘れ物の増加

自己抑制の低下による衝動的行動

これらは作業記憶や処理速度の低下と強く関連しています。

WAISスコアのパターン例

作業記憶（WMI）が平均より著しく低い

処理速度（PSI）が言語理解（VCI）や知覚推理（PRI）よりも低い

全体IQは平均範囲でも実行機能関連スコアの低さが目立つ場合

診断の補助ツールとしてのWAIS

WAISは実行機能障害を直接診断するものではありませんが、認知機能のプロフィールを詳しく把握し、障害の程度や特性を示す客観的なデータを提供します。特に作業記憶と処理速度の低下は実行機能障害の指標として重要視されます。

支援計画の立案への応用

WAIS結果を基に、注意集中訓練、作業記憶強化プログラム、時間管理や自己制御スキルの指導など、個別のニーズに即したリハビリテーションや教育的支援の計画が可能です。

女性の実行機能障害を理解し適切に支援するためには、WAISを用いた詳細な認知評価が欠かせません。作業記憶や処理速度の指標を中心に、実行機能障害の兆候を見逃さず、日常生活や社会活動に支障が出る前に専門的な介入を行うことが重要です。専門用語の理解と丁寧な解説を通して、患者様やその家族、支援者にとってわかりやすい説明を心掛けることも大切です。