ADHD女性におけるTEG（東大式エゴグラム）活用の専門的考察とその理由

注意欠如・多動症（Attention Deficit Hyperactivity Disorder、以下ADHD）は、神経発達症のひとつであり、注意の持続困難、多動性、衝動性を主な特徴とします。特に女性の場合は、症状が内面化されやすく、社会的適応のために感情や行動を抑制する傾向が強いため、自己理解や診断の遅れが課題となります。こうした背景から、ADHD女性の心理的特徴を深く理解し支援策を検討するうえで、心理検査が重要な役割を果たします。

本稿では、東京大学で開発された心理検査「TEG（東大式エゴグラム）」の概要とそのADHD女性への適用意義、具体的理由について専門的かつ丁寧に解説します。

交流分析とエゴグラムの基礎理論

TEGは、精神科医エリック・バーンの交流分析（Transactional Analysis、TA）理論に基づく心理検査です。交流分析は人間の心理構造を「自我状態（ego states）」に分け、それらの相互作用でコミュニケーションや行動を説明します。TEGはこの理論を日本向けに調整し、臨床でも使いやすい形で開発されたツールです。

TEGの5つの自我状態

TEGは個人の心理構造を5つの自我状態に分類し、それぞれの強さを点数化します。

CP（Critical Parent）：批判的で規範的な親の自我。道徳的判断や規律、自己や他者への評価的態度を示す。

NP（Nurturing Parent）：養育的で保護的な親の自我。思いやりや共感、支援的態度を表す。

A（Adult）：合理的・客観的な大人の自我。現実的かつ論理的な判断力や問題解決能力。

FC（Free Child）：自由奔放で感情表現豊かな子どもの自我。創造性や自発性、楽しみを重視。

AC（Adapted Child）：社会的期待に適応した子どもの自我。自己抑制や周囲への順応を示す。

ADHD女性の特徴と心理的課題

ADHD女性は、症状の内面化や社会的適応のために強い自己抑制や過剰適応を行うことが多いです。このため、自己批判が強まりやすく、うつや不安障害などの二次的な精神疾患を併発しやすい傾向があります。これらは本人が自覚しにくく、心理的支援を行う際には詳細な心理構造の把握が重要となります。

なぜTEGがADHD女性に適しているのか

TEGは、自己の心理的傾向を「数値」として可視化することで、内面的な葛藤や適応パターンを客観的に理解させる効果があります。特に以下の点でADHD女性に有効です。

自己批判的なCPの過剰や、過度な適応を示すACの強さを把握しやすい。

保護的なNPのレベルを知ることで自己肯定感の状態を推測できる。

A（大人）やFC（自由な子ども）の強さから、論理的思考や感情表現のバランスを理解可能。

これにより、ADHD女性の心理的負担の原因や、改善のための具体的な方向性を立てやすくなります。

CP（批判的親）

ADHD女性は自分に対する批判や完璧主義傾向が強い場合が多く、CPのスコアが高くなる傾向があります。これは自己非難や失敗の許容度の低さにつながり、ストレス増大や自己肯定感の低下を招きます。

NP（養育的親）

NPが適度に高いと自己への思いやりが強まり、精神的安定を促します。ADHD女性の自己肯定感の育成には、NPの強化が鍵となります。

A（大人）

ADHDの注意障害や衝動性を補うため、Aの健全な機能は重要です。合理的思考や現実的判断が適切に働くかどうかが、日常生活の困難さの緩和に直結します。

FC（自由な子ども）

感情表現や創造的な活動は、ADHD女性のストレス軽減や自己肯定感向上に寄与します。FCが抑圧されていると、感情の閉塞感や無力感が増します。

AC（適応した子ども）

社会的適応や自己抑制を示すACが過剰だと、無理な自己制御や他者への迎合が起こりやすく、精神的疲弊や燃え尽きのリスクが高まります。

自己理解の促進

TEG検査の結果を用いることで、ADHD女性自身が自身の心理的傾向を明確に認識しやすくなり、自己受容やセルフケアの第一歩となります。

治療・支援計画の立案

カウンセリングや精神療法において、TEGは介入すべき心理的課題（例：過剰なCPの軽減、NPの育成）を明確にし、個別的かつ具体的な支援目標の設定に役立ちます。

行動パターンの予測と対策

TEGは個人の無意識的な行動傾向を示すため、日常生活や職場でのストレス源を分析し、適切な環境調整やストレス対処法の策定に活用可能です。

個別性重視の支援

ADHDは症状の多様性が大きいため、TEGによる個別の心理構造理解は、支援の質を高めるうえで不可欠です。

ADHD（Attention Deficit Hyperactivity Disorder）：注意欠如・多動症。注意力不足や多動性、衝動性が特徴の神経発達障害。

TEG（Tokyo Egogram）：東京大学で開発された心理検査。交流分析理論に基づき、5つの自我状態の強さを数値化。

交流分析（Transactional Analysis）：エリック・バーンが提唱した心理学理論。人の心理や行動を「自我状態」に分類して分析。

エゴグラム（Egogram）：自我状態の強さを示したグラフ。心理構造の把握に用いられる。

CP（Critical Parent）：批判的親。厳格さや自己・他者への批判的態度を示す。

NP（Nurturing Parent）：養育的親。思いやりや保護的態度を示す。

A（Adult）：大人。合理的・客観的思考。

FC（Free Child）：自由な子ども。感情表現や創造性。

AC（Adapted Child）：適応した子ども。自己抑制や他者順応。

ADHD女性は内面化傾向や過剰な自己抑制により心理的負担を抱えやすく、その支援には詳細な心理構造の把握が不可欠です。TEGは5つの自我状態を具体的数値で示し、個人の心理的傾向を客観的に理解できる強力なツールとして、ADHD女性の自己理解促進や治療・支援計画の立案に非常に有効です。精神科や心理カウンセリングの現場で積極的に活用されることが期待されます。