ADHD女性の特性理解とAQ（Autism Spectrum Quotient）検査の活用

ADHD（注意欠如・多動症）女性の診断の困難さ

ADHD（Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder）は、主に不注意、多動性、衝動性の3つの症状群を中心に診断される神経発達症です。女性の場合、これらの症状が内在化しやすく、幼少期から周囲に適応しようとする「マスキング（Masking：症状の隠蔽）」の傾向が強く見られます。特に不注意型（ADHD-I）は「ぼんやりしている」「夢見がち」とされ、教育現場や家庭でも問題視されにくいため、診断が遅れがちです。

感覚過敏・感情調整困難との関連性

ADHD女性は感覚処理の特性が強く出る傾向にあります。光、音、匂い、触覚などへの感受性が高い場合もあり、これはASD（自閉スペクトラム症）と重なる特徴のひとつです。また、感情のコントロールが難しく、強い興奮・不安・落ち込みを短時間で繰り返す「情動調整困難（Emotional Dysregulation）」も見られ、社会的関係に影響を及ぼすことがあります。

AQ検査とは何か

AQ（Autism Spectrum Quotient）検査は、成人が持つ自閉スペクトラム症傾向を測定するために開発された自己記入式の質問票です。2001年にSimon Baron-Cohenらによって開発され、全50項目で構成されます。5つの下位尺度（社会的スキル、注意の切り替え、詳細への注意、コミュニケーション、想像力）から構成され、各項目は4段階評価（「まったく当てはまらない」〜「非常によく当てはまる」）で回答されます。

スコアの解釈と基準値

AQ検査のスコアは0～50点で、数値が高いほど自閉スペクトラム傾向が強いと解釈されます。一般的に26点以上で「ASDの可能性がある」とされ、33点以上で「臨床的に有意」とされることが多いですが、これはあくまでスクリーニング（予備検査）であり、診断を下すものではありません。

ADHDとASDの重複傾向

最新の研究では、ADHDとASDは共通する神経発達的特徴を多く持つことが明らかになっています。ADHD女性は、ASD的特性（たとえば過集中、社会的暗黙ルールの理解の困難、特定の興味への没頭）を併せ持っている場合があり、「二次診断（comorbid diagnosis）」として両方が認められることもあります。

マスキングの影響とAQ検査への反映

女性におけるマスキング傾向は、AQ検査においてもスコアを低めに出す可能性があります。すなわち、「本音で答えた場合と、社会的適応を考えて答えた場合のギャップ」が存在する可能性が高く、面接や日常観察を併用した包括的な評価が重要になります。

多面的な評価との併用

AQ検査は単独で診断を確定するものではないため、以下のような他の評価手法と併用して使用されることが望まれます：

CAARS（Conners’ Adult ADHD Rating Scales）

ADHD症状の強度と頻度を評価する自己記入式または他者記入式の尺度。

RAADS-R（Ritvo Autism Asperger Diagnostic Scale-Revised）

成人ASDの診断補助を目的とした評価ツール。

WISC/WAIS（知能検査）

処理速度やワーキングメモリの遅れを確認し、ASD・ADHDの傾向を把握。

自己理解と支援計画への応用

AQ検査の結果は、自己認識の促進において極めて有用です。「なぜ人間関係が苦手だったのか」「なぜ特定のことに固執するのか」という気づきは、自己肯定感を高め、支援の土台になります。また、支援者側もAQの結果を踏まえて、認知スタイルや感覚処理特性に配慮した支援方針（例：言語的指示の明確化、感覚過敏への対応）を構築できます。

職場や家庭での自己配慮のヒント

AQスコアの高いADHD女性がより快適に生活するためには、以下のような自己配慮が有効です：

感覚刺激のコントロール（例：イヤーマフの使用、照明調整）

明確なスケジュールと視覚的サポート（例：ToDoリスト、アプリ活用）

社交ストレスの低減（例：休憩スペースの確保、雑談の強制を避ける）

社会的スティグマとの向き合い方

ADHDやASDの診断を受けることに対して「レッテルを貼られる」という恐れを抱く女性は少なくありません。しかし、これらの診断や評価ツールは「生きづらさを軽減するための設計図」として活用できます。支援は「変えること」ではなく「理解し、整えること」に焦点を置くべきです。

ADHD女性においては、ASD傾向が見逃されやすく、AQ検査はその可視化に大きく貢献します。ただし、検査結果はあくまでひとつの指標であり、本人の主観的経験や周囲の理解と組み合わせて活用することが、真の支援につながります。専門機関による総合的な評価と、日常生活に根ざしたサポートが鍵となります。