- 愛着障害とは何か
-
- 愛着の基本概念
-
愛着(Attachment)とは、幼児期における特定の養育者との情緒的な結びつきのことを指します。発達心理学者ジョン・ボウルビー(John Bowlby)が提唱した理論によると、愛着は子どもの情緒的・社会的発達において最も基盤となる要素です。愛着は安全基地として機能し、子どもが外界に対して安心して探索行動を行うための基礎を築きます。
- 愛着障害の定義
-
愛着障害(Attachment Disorder)は、乳幼児期における愛着形成の過程が適切に進まなかった結果、対人関係や情緒調節に深刻な困難をきたす精神的な障害群を指します。特に、適切な養育環境が欠如した場合や、虐待・ネグレクト(育児放棄)を受けた場合に生じやすいとされています。
- DSM-5における愛着障害
-
精神医学の診断マニュアルDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)では、愛着障害は主に2つのタイプに分類されます:
反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder: RAD)
脱抑制型社会的交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder: DSED)
これらは、それぞれ異なる行動特性を持ち、治療方針も異なります。
- 愛着障害の原因と発症メカニズム
-
- 環境的要因
-
愛着障害の主な原因は乳幼児期における養育者との不適切な関係性にあります。代表的な環境的リスクファクターは以下の通りです。
- ネグレクト(育児放棄)
-
基本的な養育ニーズ(食事、清潔、愛情など)が満たされないことで、子どもの安心感や信頼感が形成されません。
- 虐待(身体的・心理的)
-
暴力や言葉の暴力、無視といった虐待は情緒不安定を引き起こし、愛着形成を妨げます。
- 乳児期の複数養育者
-
頻繁な養育者の交替や施設での育成など、一貫した愛着対象の不在も愛着障害を誘発しやすいです。
- 生物学的要因
-
愛着形成にはオキシトシンやバソプレシンなどの神経ペプチドが関与しており、これらの神経伝達物質の機能不全が愛着障害に関係している可能性があります。また、ストレスホルモンであるコルチゾールの慢性的な上昇も情緒調節障害を助長します。
- 愛着障害の種類と特徴
-
- 反応性愛着障害(RAD)
-
- 症状の概要
-
RADは主に情緒的な閉塞や回避的行動が特徴で、他者との親密な関係を拒否する傾向があります。具体的には、以下のような行動が見られます。
養育者に対して無関心または回避的な態度
情緒表現の乏しさ
不適切な社会的相互作用(例えば、過度の孤立)
- 発症年齢
-
通常、3歳までに症状が明らかになることが多いです。
- 脱抑制型社会的交流障害(DSED)
-
- 症状の概要
-
DSEDは、過度に見知らぬ人に対してフレンドリーかつ親密な態度を示すことが特徴です。社会的境界の欠如が問題となります。
見知らぬ人に抵抗なく近づく
過度な身体的接触や話しかけ
安全確認行動の欠如
- 発症メカニズム
-
一貫した養育者の不在により、正常な社会的抑制が育まれず、過度に開放的な対人行動を取ると考えられています。
- 愛着障害の診断と評価
-
- 診断基準
-
愛着障害の診断は臨床的観察および養育歴の詳細な聴取に基づきます。DSM-5の診断基準を参照し、行動パターンと背景環境を慎重に評価します。
- 評価手法
-
- 行動観察法
-
子どもの養育者との相互作用を直接観察し、愛着行動の有無や質を評価します。
- 心理検査
-
内面の情緒状態や社会的スキルを評価するための心理検査が用いられます。例として、「愛着インタビュー」や「ストレンジ・シチュエーション法」があります。
- 養育環境の評価
-
過去の養育状況(虐待歴、ネグレクト歴、施設養育歴など)を文献や面接を通じて詳細に確認します。
- 愛着障害の治療法
-
- 療育的アプローチ
-
- 愛着形成療法(Attachment-Based Therapy)
-
養育者との信頼関係再構築を目指し、親子間の情緒的な絆を強化します。
- プレイセラピー
-
遊びを通じて子どもの内面の感情を引き出し、安心感の形成を促します。
- 薬物療法
-
愛着障害自体に特異的な薬は存在しませんが、併存する情緒不安定や行動障害に対しては、抗うつ薬や気分安定薬が用いられることがあります。
- 社会的支援と介入
-
保護者の育児支援、施設の環境改善、地域の心理社会的サポートが不可欠です。多職種連携(児童精神科医、心理士、ソーシャルワーカー等)により包括的なケアが実施されます。
- 愛着障害の長期的影響と展望
-
- 成人期への影響
-
愛着障害は情緒調節の困難さや対人関係障害として成人期まで持続することがあります。特に自己肯定感の低下や親密な関係の形成障害を引き起こし、うつ病や不安障害のリスクも高まります。
- 早期介入の重要性
-
乳幼児期に適切な介入を行うことで、愛着障害の発症や重症化を防止できます。予防的な保育支援や養育者教育が社会的に求められています。
- まとめ
-
愛着障害は幼児期における愛着形成の失敗により、対人関係や情緒発達に深刻な影響を与える精神的障害です。原因は主に養育環境の不適切さに起因し、反応性愛着障害と脱抑制型社会的交流障害の二つに大別されます。正確な診断には詳細な臨床評価が必要であり、治療は愛着形成療法や心理社会的支援を中心に行われます。早期発見・早期介入が将来的な精神的健康に大きく寄与します。
-
ご希望があれば、さらに特定分野(例:神経生理学的視点、発達心理学的詳細、治療法の最新研究など)に絞って解説も可能です。
お知らせ内容をここに入力してください。
目次